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同時刻…
奥州青葉城にて


ハッと目を開けた政宗は視線を左右に動かし、自分が布団に寝かされていることに気付いた。

「俺は……」

身体を起こそうと身を捩れば腹部に鈍痛が走る。

「ぐっ…!」

視線を落とし手をあてればそこには清潔な真っ白い布が巻かれており、同時に遊士に一撃喰らった事を思い出し舌打ちした。

「Damn it!奥州筆頭ともあろう者がみっともねぇ。何やってんだ!」(くそっ!)

遊士に一撃を喰らった事じゃない。冷静さを欠いて守るべき人間を傷付けた事がだ。あんな顔させるつもりはなかった。

一瞬、傷付いた表情を浮かべた遊士。

政宗が床で起き上がっていると、失礼しますと小さな声がして障子が開く。

「…!…政宗様!」

入ってきたのは彰吾だった。

政宗は彰吾に視線を投げ、口を開く。

「小十郎と遊士はどうした?」

政宗が目を覚ましたとなれば一番に姿を見せそうな小十郎と遊士がいないことに政宗は疑問を持った。

当然聞かれるだろうと思っていた問いに彰吾は障子を閉め、その場に座して答える。

「遊士様と小十郎殿は松永の元へ向かわれました」

「…そうか」

静かに帰ってきた返事に、彰吾は遊士から預かった刀を渡すことを決めた。

何となく彰吾が一人で現れた時点で政宗はそんな予感がしていた。

「彰吾、薬師を呼んでくれ」

「はっ」

始めからそのつもりだったのか彰吾は頭を下げるとすぐに部屋から出て行った。

戻ってきたのは喜多に連れられた薬師だけで彰吾の姿は無い。

「如何で御座いましょう?」

一通り具合を見て貰い、喜多が心配そうに薬師に尋ねる。

「うむ。安静にしていれば問題はありませぬな」

「刀を振ることは?」

「安静にと申し上げた通り、刀を振るうなどとは」

政宗は薬師の言葉を右から左に受け流し、分かった。下がれ、と言って薬師を退出させた。

「政宗様、呉々も無茶は為さりませぬよう」

去り際、喜多がそう言葉を残して出て行った。

「さすが小十郎の姉。言うことが同じだな…」

苦笑を浮かべ、枕元に畳んであった陣羽織を手に取った。

「政宗様」

戦装束に着替え終えた政宗は外からかけられた声に入れ、と入室を促す。

「彰吾か、止めたって無駄だぜ」

弦月の前立ての兜を被り、紐を結わえる。

「承知しています。それに政宗様をお止め出来るのは小十郎殿か遊士様ぐらいです」

「じゃぁ何だ?」

「俺もお供致します。小十郎殿の様にとはいきませんが、微力ながら俺が政宗様をお守り致します」

それと、と続けて彰吾は遊士から渡された刀を政宗に差し出した。

目の前に差し出された刀を見つめ、政宗は瞳を細めた。

遊士の愛刀、皇龍。

「遊士様が政宗様に渡してくれと。必ず必要になると言われて預かりました」

政宗はふっと口元を緩めてその刀を受け取った。

「良く、分かってるじゃねぇか遊士」

分かってなかったのは俺の方だ。

「OK...行くぜ彰吾。松永の野郎を倒して伊達の宝を奪い返す」

「はい」

しっかり頷き返した彰吾の目には、いつもの不敵な笑みを浮かべた独眼竜の姿が写っていた。

もう大丈夫だ。

政宗は城を出る前、綱元を捕まえて指示を出していく。

「綱元。俺が留守にしている間、成実を影武者に仕立てて城と民を守れ」

「はい。殿もお気をつけて」

綱元は側に控えるように立つ彰吾にも目をやると彰吾に声を投げた。

「彰吾。貴方も気を付けるのですよ。殿を御守りするのはもちろんですが、貴方に何かあっては遊士様が悲しまれますからな」

「はい」

力強く返した彰吾に綱元はでは行き来なさい、と言い二人を送り出した。



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